カリブ海に浮かぶ島国ハイチで、人々の生活の中に行き続ける民衆宗教「ヴードゥー」。奴隷として送られた人々とともにハイチにやってきたアフリカの宗教と、ヨーロッパの植民者たちがもたらしたカトリックの信仰。この二つが渾然一体となって生まれたヴードゥーは、虐げられた人々、圧制に苦しむ人々の心の支えとなり、勇気と団結力を与えてきました。複雑な背景ゆえにしばしば誤解されることの多いヴードゥーの精神文化と、そこに深く関わる音楽を、いままさに体感していただきます。複雑なリズムを持ち、深遠な象徴性に富んだ音楽とダンス、憑依を伴う独自の儀式が本格的に紹介されるのは本邦初となります。
「ヴードゥー」とは
ハイチの民間信仰。キューバやトリニダード・トバコ、ブラジル、またルイジアナ州などアメリカ合衆国南部にも広まっている。中部・西部アフリカから奴隷としてハイチに送られた黒人たちがもたらしたもので、その語源「ヴードゥン」は「霊」「生命力」を意味する。ハイチでは、フランスの植民者たちがもたらしたカトリックと融合し、ハイチ独特の宗教として発展してきた。
ハイチ人のほとんどはヴードゥーとカトリックの双方の信者である。聖母マリアをはじめとするカトリックの聖人や宗教的シンボルは、たいていヴードゥーの精霊たちと置き換えられ、重ねあわせられて信仰されている。十字架の使用、洗礼の儀式、十字を切ることなど、カトリック的な要素が取り入れられる一方で、踊りや太鼓の音楽、先祖の崇拝、双子の崇拝、呪術的な要素など、アフリカの宗教の要素も色濃いのが特徴。ハイチ、ソードゥーの滝への巡礼は、19世紀半ば、村人が樹上で輝くマリアを目撃した聖母マリア伝説に由来する。聖母マリアはヴードゥー教の愛の精霊エジリと同一であるとされている。
こうして人々の生活に根付いたヴードゥーは、植民地支配下で虐げられた奴隷たちに勇気と団結力を与え、ハイチ独立の大きな原動力になった。その後も何度も邪教として排斥され、寺院の破壊が行われたが、人々の信仰心は生き続け、1987年の新憲法で正式にハイチの国教として認められるに至った。ヴードゥーの奥義は、「ロア(精霊)」との交流によって個人や共同体が抱える問題を解決し、社会生活を理想的なものへと変革することにある。音楽や踊りで呼び出されたロアにとりつかれた人々は、恍惚状態の中で人々の病を治したり、アドバイスを与えたりする。